横浜地方裁判所 平成3年(わ)296号 判決 1992年2月21日
本店所在地
神奈川県相模原市相模原四丁目七番二〇号
有限会社
木内建設
(右代表取締役 木内忠夫)
本籍
神奈川県相模原市西橋本三丁目二番
住居
同市西橋本三丁目二番一五号
会社役員
木内忠夫
昭和二九年二月二日生
右の者ら対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官藤河征夫出席の上審理し、次の通り判決する。
主文
被告人有限会社木内建設を罰金一億円に、被告人木内忠夫を懲役二年にそれぞれ処分する。
被告人木内忠夫に対し、この裁判確定の日から五年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人有限会社木内建設(以下「被告人会社」という。)は不動産の売買及びその仲介等を目的とする会社であり、被告人木内忠夫は、被告人会社の代表取締役としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人木内忠夫は被告人会社の法人税を免れようと企て、被告人会社の業務に関し、その売上げの一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、
第一 昭和六一年九月一日から同六二年八月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が四億六五九八万七六八八円あったのにかかわらず、同一〇月三一日、神奈川県相模原市富士見六丁目四番一四号所在の所轄相模原税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一八万九四七六円でこれに対する法人税額が四万七九〇〇円である旨虚偽の法人税確定申告書(平成三年押第一八三号符合1)を提出し、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額二億六五三六万五〇〇円と右申告税額との差額二億六五三一万二六〇〇円の法人税を免れ、
第二 昭和六二年九月一日から同六三年八月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が一億八九二五万三六八〇円あったのにかかわらず、同年九月三〇日、前記相模原税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二三五万七八七九円でこれに対する法人税が九二万四二〇〇円である旨虚偽の法人税確定申告書(前同号符合2)を提出し、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額一億二三一万七三〇〇円と右申告税額との差額一億一三九万三一〇〇円の法人税を免れた
ものである。
(証拠の標目)
判示の全事実について
一 被告人木内忠夫の当公判廷における供述
一 第一回、第三回公判調書中の被告人木内忠夫の各供述部分
一 被告人木内忠夫の検察官に対する各供述調書(七通)
一 根岸節雄、峰岸幸夫の検察官に対する各供述調書
一 平川隆、清水則房、竹川武美の大蔵事務次官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成の土地建物売上高調査書、仲介料収入高調査書、工事売上高調査書、家賃収入調査書、期首棚卸高調査書、土地等仕入高調査書、仕入諸経費調査書、支払仲介料調査書、外注加工費調査書、期末棚卸調査書、広告宣伝費調査書、厚生費調査書、賃借料調査書、修繕費調査書、消耗品費調査書、水道光熱費調査書、旅費交通費調査書、租税公課調査書、交際接待費調査書、通信費調査書、雑費調査書、受取利息調査書、雑収入調査書、支払利息、割引料調査書、雑損失調査書、預金利子税調査書、事業税認定損調査書、土地等の譲渡に係る譲渡利益額調査書、領置てん末書
一 商業登記簿謄本
判示第一の事実について
一 大塚春夫、吉田巌、出町正三、出町元江、横山峯介、海口博、高橋年子の検察官に対する各供述調書
一 渡辺辰夫、阿部時夫、高橋年子、菊地史朗の大蔵事務官に対する供述調書
一 大蔵事務官作成の仲介料収入高補正調査書、工事売上補正調査書、法人税額月計算書(自昭和六一年九月一日至昭和六二年八月三一日のもの)、土地等の譲渡等に係わる譲渡利益金額補正調査書
一 押収してある法人税確定申告書(平成三年押第一八三号符合1)
判示第二の事実について
一 平川隆、川西知久平、小宮昭三、高野恵二、江口正長、濱田シイの検察官に対する各供述調書
一 町田忠次、政岡政行(二通)の大蔵事務官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成の事業税認定損補正調査書、法人税額計算書(自昭和六二年九月一日至昭和六三年八月三一日のもの)
一 押収してある法人税確定申告書(前同号符合2)
(法令の適用)
被告人らの判示所為は、それぞれ各事業年度ごとに、法人税法第一五九条一項(被告人会社については、さらに同法一六四条一項)に該当するところ、被告人会社については情状により同法一五九条二項を適用し、被告人木内忠夫については所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人会社については同法四八条二項により合算した金額の範囲内において罰金一億円に、被告人木内忠夫については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で懲役二年にそれぞれ処し、被告人木内忠夫に対し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から五年間その刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
本件は、被告人らにおいて、二事業年度にわたって合計三億六六〇〇万円余の多額の法人税を逋脱したというものであるが、逋脱額に加え、その逋脱率も九九パーセントを超えるものである上、その態様をみても、被告人会社の売上を過少にみせかけるため、契約の相手方と通謀し、あるいは相手方に無断で実際額の記載された契約書等を破棄して、虚偽の契約書等を作成するなど、大胆かつ巧妙なものであって、誠に犯情の悪質な事案というべきであり、さらに、国税当局の調査の際にも、契約の相手方らに対し、虚偽の供述をするよう働きかけるなどしていたことなどの点を併せ考慮すれば、その刑事責任は重いといわなければならない。
しかしながら、被告人会社は、本件の本税、附帯税等をすべて納入するとともに、新たな税理士を迎えるなど、その経理体制を改善しようとする姿勢を示していること、被告人木内忠夫についても、変更された訴因を含めて本件公訴事実を全て認め、また日本赤十字社に二〇〇〇万円を贖罪寄付をするなど、反省の態度が顕著であり前科もないことなど被告人ら、それぞれのために斟酌すべき事情も認められる(なお、被告人らの責に帰すべからざる理由により再三訴因変更等がなされ、ために審理が長期化した事情もある。)ので、以上の諸事情を総合して考慮し、被告人らに対しては、主文掲記の各刑を量定した上、被告人木内忠夫については、特にその情状にかんがみ、その刑の執行を猶予することとした。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 荒木友雄 裁判官 河合裕行 裁判官 三浦隆志)